最後の国鉄色特急「やくも」岡山〜出雲市 乗車記
「特急やくも」は、1982年の伯備線電化以来40年にわたり国鉄型の381系特急型電車で運転されてきたが、ついに後継車両への置き換えが近づいてきた。2022年3月から、特急やくもの運転開始50周年を記念し、うち1編成が塗色を国鉄色に戻して運用されることとなった。この原色編成で運転される「やくも9号」に乗車し、出雲市へと向かった。
国鉄色やくも編成(E5編成?)の運用は下記の通り。
1008M やくも8号 (出雲市 7:21 → 岡山 10:35)
1009M やくも9号(岡山 11:05 → 出雲市 14:11)
1024M やくも24号(出雲市 15:29 → 岡山 18:39)
1025M やくも25号(岡山19:05 → 出雲市 22:11)
いちばん良い時間帯は、当然ながら岡山1105発の「やくも9号」である。2022年5月のとある週末、岡山駅へと向かう。
岡山駅にて
10時35分、送り込みとなる「特急やくも8号」が岡山駅3番線へと入線してくる。
岡山駅の倉敷寄りは、橋上駅舎の真下となるため、昼間でも暗いのが難点だ。やくものヘッドマークは、暗いところだと地色が紫色に暗く光り、明るいところで見るのとまたすこし違った妖しげな印象を与える。
JR西日本は、短い時間であっても回送時には回送幕への切り替えを徹底している。この場合も例外にもれず、到着とほぼ同時にヘッドマークが切り替わってしまう。
到着番線と発車番線が異なるため、折返し時間は40分ほどにも関わらず、列車は一旦岡山駅東側の引上線に留置される。
かつて、正調の特別急行は、ホームで清掃作業などもってのほか。引上げ線で作業し、準備を整えてから入線してくるものだと昔の方に聞いたことがあるが、その意味では正しい所作といえる。
10:47 前照灯が点灯すると、いよいよ入線準備が整ったことがわかる。なお、入れ換え時に、前照灯と尾灯を両方点灯する手順も徹底している。
が、まだ入線ではない。
10:49 先に113系B-19編成の回送を通す。
10:56 「やくも9号」(1009M)がようやく2番線に入線してくる。
岡山駅2番線は、古レールが用いられたホーム上屋に、ところどころ明かり取りが設けられており、とても美しい。おそらく、山陽新幹線開通前は東口の駅本屋と直結した1番ホームだったように思えるが…。
岡山市立の博物館で2020年に開催された企画展の図録に、山陽新幹線開通前の岡山駅の写真を見ることができる(図録2 p17. 「岡山駅の変遷(岡山市立中央図書館所蔵の写真、絵葉書から)」参照)。
岡山シティミュージアム 企画展「鉄道のまち おかやま」電子図録
いずれにしても、優美なホームに、クリーム色に赤帯の国鉄色の特急が停まっている姿は美しい。他の塗色とはオーラが違うというのが第一印象だ。381系は屋根上がスッキリとしているだけでなく、車体長も21.3m とかなり長い。標準軌の近鉄並みである。プロポーションの良さは国鉄特急型随一だ。
岡山方は先頭車化改造されたクモハ381-507。1983年の新製時は中間車モハ381だったが、国鉄末期の1986年には特急のフリークエンシー向上による短編成化のため、先頭車化改造されクモハ381-7へと改番された。
さらに2016年には自動解結装置を取り付け、クモハ381-507へと改番された。スカートも287系めいた今っぽいデザインのものに交換された。特急マークもペッタンコで連結器まわりもいかついため、全体的にゲテモノ感は拭えないが、近くで見るとこれはこれで悪くはない。
伯備線を北へ
列車は定刻に岡山を出発。山陽本線を快走し、倉敷から伯備線へと入る。まだコロナ禍ということもあり、さらに繁忙期でないにも関わらず、フル6両編成のために車内は空席が目立つ。
列車は、高梁川に沿って急カーブを進む。6両編成にも関わらず先頭車まで見渡せるRのきつさだ。
381系の車内
空いているので車内を探索する。
シートをはじめとするアコモデーションは「ゆったりやくも」への改造に伴い改良されている。また床面はハイデッカー化されている。
ちなみに、シートピッチの拡大に伴い、窓割りとの激しい不一致が発生している。写真の2列目に当たったら目も当てられない。ハズレ席を避けるため、いちばんデッキ寄りの座席を指定したが正解だった。足が少し伸ばせない以外は快適だ。
洗面所には、名物のエチケット袋が用意されている。
国鉄型車両のデッキ名物「くずもの入れ」も健在だ。
上り「やくも」とは方谷・足立で2回離合
方谷駅(岡山県高梁市)では、上り特急やくもと離合する。
伯備線は全体的に線形が悪く速度は出せないが、井倉ー石蟹間は新線へと付け替えられているため、山間で突然フルノッチの高速走行へと切り替わる。複線区間だが、この区間での特急同士の離合はダイヤの都合上行われないようだ。
岡山県北部の要衝、新見駅を出ると、いよいよ岡山と鳥取との県境が近づき、深い山間を進む。
足立(岡山県新見市)にてふたたび上りのやくもと離合する。
県境は、新郷ー上石見間にある谷田峠トンネルで一気に越える。地元では「たんだだわトンネル」と呼ぶらしい。トンネルを抜けると、線路は下り勾配となり、山深い岡山県側と比べて開けており風景も明るく、どこかのんびりとした雰囲気に。
途中、伯耆溝口では伯備線貨物と交換する。愛知機関区の国鉄色EF64-1000が牽引する貨物列車と、国鉄特急色の381系が交換する光景は、ぜひ目に焼き付けておきたい情景だ。
やがて右手に鳥取県の名峰・大山が見えてくる。もうすぐ米子だ。
定刻13:16、山陰の要衝、米子駅に到着。停車時間も2分あり、ほっと一息といった空気が漂う。乗客も入れ替わる。
安来、松江と島根県の主要駅に停車する。松江を出ると、右側の車窓には美しい宍道湖の景色が広がる。
途中、宍道では存続が議論されている木次線のキハ120が停車していた。
山陰本線の米子ー出雲市間は、さすがに山陰本線随一の特急街道だけはあって、線形もよい。特急やくもも、JR西日本の特急に恥じない、胸のすくようなラストスパートを見せる。
斐伊川の橋梁を渡ると、終着出雲市だ。列車は14:11に定着した。岡山からほぼ3時間あまり、毎日陰陽を駆け抜ける特急やくもの旅はここで終わる。
出雲市では、上りの特急やくも22号と並ぶ。
この国鉄色編成は、15時29分発の「やくも24号」となるが、これまた丁寧に、いったん後藤総合車両所出雲支所に引き上げる。
15時15分に、回1024Mとして出雲市にふたたび戻ってくる。
出雲市駅で、やくものヘッドマークを掲げた国鉄色E5編成の駅撮りを狙いたい場合は、この「やくも24号」の入線まで待つのがよい。中線側に停車するため、編成写真も狙えるからだ。
先頭車にはなんと、その後2023年3月からは国鉄マーク(「JNR」ロゴ)も取り付けられたとのこと…。
出雲市駅構内には、特急やくも50周年記念のポスターが掲示されていた。
1982(昭和57)年の「伯備線・山陰本線電化開業記念」の記念エンブレムもコンコースに展示されている。
ホームに戻ると、タラコ色のキハ40たちがホームにひしめいていた。出雲市駅では、いまも日々国鉄色の宴が繰り広げられている。
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