いすみ鉄道のキハ28・52気動車急行「外房」に乗りに行く(2)
千葉県の大原ー上総中野間を結ぶいすみ鉄道(旧国鉄木原線)では、JR西日本から転属してきた国鉄型気動車のキハ28‐2346とキハ52−125が土日・祝日に急行列車として走っている。大原から終点の上総中野まで「気動車急行」の旅を体験した。
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いすみ鉄道のキハ28・52気動車急行「外房」に乗りに行く(1)
キハ28の車内を観察
さあ、急行列車にいよいよ乗車しますよ!
このデッキ。ワクワクするね!
無骨な国鉄型車両のデッキ。最近のステンレス車両では妻窓もなくなってしまった。
キハ28のディテール観察を終え、ようやく意気揚々とキハ28−2346に乗り込む・・・と、おおーっと・・・。レストラン列車と「共通運用」ということで、ボックスシートにはテーブルが備え付けられてしまっている。もちろんレストラン列車はいすみ鉄道の大事な収益源なので、私がどうこういう筋合いではないのだが、純粋にふだん着の国鉄気動車の旅を楽しみたいのなら、指定席券を奮発してまでキハ28に乗るのはオススメしない。キハ52に乗ることをオススメする。
シートがブルーのモケットなのは評価するが…。
キハ28の天井部。
昭和39(1964)年・帝国車両の製造銘板。右には米子管理局後藤工場の銘板が。かすれていて読みにくくなっているが、4VK冷房用発電装置設置工事による改番時のものだろうか?
キハ28より時代は遡るが、昭和34年当時の「日本国有鉄道案内図(関東・中部・近畿)。
日本人の心の原風景「里山」をゆく気動車急行
〔下り急行1号〕は、9時18分定刻に大原を発車。じつはこれが外房線上りわかしお8号と同時発車で、分岐までしばらくの間、両列車は並走する。同時発車は、鉄道ファンならずともワクワクする一大ページェントである。わかしお号の乗客たちは、年季の入ったディーゼルカー2両の列車を興味深げに注目している。これも鳥塚社長のいすみ鉄道PR戦略の一環なのだろうか?などと考える。
ほどなくして懐かしい「アルプスの牧場」のチャイムが鳴り響き、途中の停車駅を案内する。
いすみ鉄道は、外房線の大原駅から分岐し、房総丘陵の山中に位置する上総中野駅まで到達する30キロ足らずの第3セクター鉄道だ。終点の上総中野駅では小湊鉄道と連絡するので厳密な意味では「盲腸線」ではないが、鉄道事業者が異なるという意味では幹線から分岐して山中へと向かうローカル線の趣がある。
また、千葉県は日本で唯一500m以上の山がない都道府県で、房総半島の背中には山地、ではなくゆるやかな房総丘陵が広がっている。おだやかな気候とあいまって、日本人の心の原風景とでもいうべき「里山」の景観をなしている。くしくも小湊鉄道で新たに運転開始するSLも「里山トロッコ」というネーミングだが、地域の資源のチャームポイントを活かしたネーミングだ。
「自動ドア」を誇らしげに主張する窓ガラス越しに、早春の水田が車窓を流れていく。これぞ国鉄急行!という車窓風景だ。「千と千尋の神隠し」で海上を走る流線型電車の電車が出てくるが、懐かしくて、どこか胸が痛くなる。あのシーンは絶対こういう日本人の原風景にモチーフを得たんだろうな、と思う(伊勢湾台風直後の名鉄常滑線という説もある。直接的には、たしかにこの光景なのかもしれないが、わたしたち日本人の心を打つのは、やはり水鏡の中を列車が進んでいく風景が心のなかに刻みこまれているからなんだろうな、と思う)。
列車は、大原を出て10分ほどで上総東に停車。そして次の国吉で10分停車するが、ここが撮影タイムということになっている。
国吉駅にて。コンクリートが風化して、玉砂利がむき出しになったホーム終端部のスロープ。未舗装のホームにはタンポポが咲き誇っている。これぞローカル線の駅ホームという感じがしませんか?
同じく国吉駅にて。かさ上げされていないホームって子どものころから好きだったなあ。床下機器がちょっと顔を覗かせて。電車だったらMGやブロワーの音や温風が感じられて、気動車だったらエンジンの鼓動がよく聞こえて。
鳥塚社長、おそらく分かってらっしゃるのでしないとは思いますが、いすみ鉄道が大黒字になっても駅の改修や橋上化はしないでくださいね・・・。
キハ52とキハ28・2エンド側の、たまらない連結部。
まだまだ国吉駅です。腕木式信号機とキハ28。いつかタブレットキャッチャーと客室扉の保護金網も復元してくれるといいな。
留置中のキハ30-62と。並んでこそ急行形気動車の風格が感じられるという意味では、キハ30の運用開始も待ち遠しい。
列車は、大多喜からは普通列車になり、終点上総中野まで向かう。急行列車が途中から普通列車となるのは、これもリアルに国鉄時代の気動車急行を再現しているが、趣味的な観点だけではないようだ。大多喜‐上総中野間は、この急行(101D)のスジがなければ3時間20分あまり列車の間隔が空いてしまう。地元客の利便性を考えた「必然性のある」ダイヤとなっている。
大多喜10時3分発、終点上総中野には10時26分着。大原から乗り通しても1時間ちょっとだが、小さなディーゼル急行の旅が終了した。
終点上総中野で小湊鉄道のキハ200形と並ぶ。キハ200形は、昭和36(1961)年から昭和52(1977)年にかけて国鉄キハ20をベースにして生産された車両で、これまたDMH-17エンジンを搭載している。エンジンの換装は行われておらず、最終増備車は「最後のDMH-17搭載車両」である。ほんとうに、房総半島は国鉄型気動車の楽園なのである。
線路は、内房線五井へと続いている。(つづく)
続編はこちら
いすみ鉄道のキハ28・52気動車急行「外房」に乗りに行く(3)
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